本記事では、小説:十二国記『黄昏の岸 暁の天』の感想とあらすじ(ネタバレ)を紹介しています。
また、作中に登場する名言についてもまとめてみました。
本作では陽子の成長ぶりが強く感じられ、物語のはじめから見守ってきた身として込み上げてくるものが感じられます。
本記事は、小説『十二国記』をこれから読んでいく人に向けたものになります。 十二国記はすでに長編作品となっており、じっくり腰を据えて読んでいくことになりますが、発売されている順番通りに読めばOKというものではありませ[…]
『黄昏の岸 暁の天』あらすじ
「どうか、お願いです。戴をお救い下さい……!」
突如慶国の王宮・金波宮(きんぱきゅう)の前に現れた片腕の女。
彼女は戴国の将軍・李斎でした。
7年物間、国王と麒麟がいないまま経過した戴国は、いまや荒れ果て、驍宗ではなく阿選(あせん)という男が玉座についていました。
李斎は謀叛の嫌疑を賭けられ戴を逃亡、泰麒と同じ蓬莱の民と言われる景王・陽子を訪ねたのです。
助けを願う李斎に、陽子は心を動かされ戴を救う手立てを考えます。
しかし延王・尚隆は陽子に「覿面(てきめん)の罪」に注意するよう助言をしたのです。
「覿面の罪」とは、「兵を持って国境を越えてはならない」という天帝の決まり。
これに背いた王と麒麟は即死するという厳しい運命が待ち構えています。
これに対し、陽子は十二国全ての麒麟を終結し、泰麒救出を行うことを提案。
他国の麒麟と王に集合を持ち掛けたのです。
「覿面の罪」が立ち塞がる前に、各国の王と麒麟は反応してくれるでしょうか。
そして失踪した泰麒と驍宗の行方は。
李斎の命を賭けた旅の結末が語られようとしています。
ネタバレ・ストーリーの流れと結末
ここでは、十二国記『黄昏の岸 暁の天』のネタバレを含む、ストーリーの流れや結末について紹介しています。
懐かしい面子が再登場!戴国将軍・李斎が泰麒の助命を乞う
慶国に突如現れた襤褸の衣服を身にまとった武将・李斎。
彼女は戴国の将軍で、海客である陽子に泰麒を探してほしいと奏上します。
すでに李斎は戴国を追われ、頼りにできる人も場所もありませんでした。
陽子はこの願いを聞き届け、戴国の麒麟「泰麒」を十二国に連れ戻すことを決意。
祥瓊(しょうけい)と鈴に李斎の看病を頼み、自らは浩瀚(こうかん)や遠甫(えんほ)たちと救う手立てがないかを調査します。
李斎の過去、そして尚隆は「覿面の罪」を陽子に語る
聞くところによると、驍宗と泰麒が過ごしたのは約1年の間で、ある日驍宗は国の内覧を自ら治めるべく函養山(かんようざん)に入ったと言います。
そこで驍宗の足取りは消え、音信が途絶えたのです。
泰麒のいた宮殿には「鳴蝕」の痕跡が残っており、泰麒が何者かによって襲撃され、強制的に蝕を発生させたと思われています。
それを最初に見つけ、王の崩御を知らせる白雉(はくち)の足を持ってきたのは禁軍の長・阿選(あせん)でした。
陽子はこの経緯を聞き、まずは延王に助力を求めます。
しかし尚隆は快諾しません。
これは「覿面の罪」に抵触する可能性があると言うのです。
「覿面の罪」とは、王が兵を持って国境を渡ってはならないという決まり事。
これを破るとその国の王と麒麟の定めは死、あるのみ。
これに抵触せず、戴の国を救うのであればまずは泰麒を探すしかありません。
王が海を渡ると蝕が発生し、蓬莱側に甚大な被害が発生します。
そこで陽子は、十二国の「麒麟」たちの力で泰麒を捜索することを提案したのです。
泰麒捜索隊結成のため、陽子は各国に呼びかけを行う
延王の助力で、各国の麒麟を慶に招きます。
結果、恭・範・才・漣・奏の5国が応じてくれました。
これに慶と雁を合わせ、合計7国の麒麟で泰麒を捜索します。
その前に陽子と延麒は、蓬山に向かいこの行為が天帝の意に反していないかを玄君・玉葉に相談しました。
「神籍もしくは仙籍の伯以上の資格を持たなければ、虚海は渡れない」
これを言い含められ、玄君の許可を得たのちに捜索が始まったのです。
捜索には長い時間がかかりました。
しかしとうとう、氾麟(はんりん)の使令が手がかりをつかみます。
恐ろしいほど穢れており、並大抵の使令では入れないという場所。
その場所は、泰麒の日本での故郷でした。
延麒はこの穢れの中で生きていられるのなら、恐らく泰麒は麒麟としての力を、つまり角を消失しているだろうと推測しました。
もし泰麒が普通の人としての能力しか持ち合わせていないのであれば、虚海を渡ることが出来ません。
陽子たちはもう一度蓬山に渡り、玉葉の助言を再び仰ぎました。
その結果、直接王が泰麒を一時的に仙に召し上げることで、こちら側に渡ることが出来ると判明したのです。
「麒」でなくなった泰麒、延王の力により帰還す!
決行の日、先に向かったのは廉麟でした。
彼女は泰麒と接触したものの、泰麒が十二国の記憶を全て喪失していることに愕然とします。
かろうじて命はある状態と聞き、ついに延王・尚隆は海を渡ることに。
そこで出会ったのは、黒髪の少年でした。
彼は廉麟の転変した姿を見て、自分が「人ではない」ことを思い出していたのです。
尚隆はその場で泰麒を太子に任じ、使令の背に泰麒を乗せることに成功しました。
陽子たちのもとへ帰還した泰麒と延王。
しかし泰麒は死臭が漂い、己への呪詛によって穢されている状態でした。
すかさず一同は蓬山に向かい、玉葉の支持を仰ぎます。
泰麒の症状はあまりにも悪く、玉葉にも治療が出来ない状態でした。
玉葉はその場で西王母の力を借りることを決めます。
西王母とは、十二国の神話に出てくる女神。
尚隆も、陽子もこれまであったことはありません。
李斎は直接奏上したいという気持ちから、玉葉と王たちと共に西王母のもとへ向かいます。
伝説の西王母は蓬山の奥の霊廟に姿を見せました。
そして「何故泰麒が死んではならぬのか」と李斎に厳しい問いかけをします。
李斎は答えに窮したものの、「戴が滅びるとしたら、自分自身のせいになる」と答えました。
「泰麒に奇跡を望まない。ただ、戴には光が必要」だと李斎は奏上します。
これを聞いた西王母は泰麒の傷を癒やすことを約束しました。
しかし、それ以上のことは今は出来ない、と伝えたのです。
李斎と泰麒、戴国へ向かう
数日後に泰麒は、金波宮で目を覚まします。
陽子は泰麒と初めて会話を交わし、蓬莱での出来事などを話しました。
互いの知識と能力を使いながら、十二国を良くしていこうと決めるふたり。
その夜、泰麒は李斎に戴へ帰国することを提案します。
泰麒の安全を確保したい李斎は反対しますが、「戴の民が戴を救う」という泰麒の言葉を信じ、再び戴の国へ戻る決意をしました。
晩秋、泰麒と李斎は騎獣に乗ってそっと金波宮を立ち去ったのでした。
陽子と景麒はふたりでその姿を見送り、戴の復興を強く願います。
『黄昏の岸 暁の天』に登場する名言を紹介
「もしも天があるなら、それは無謬ではない。実在しない天は過ちを犯さないが、もしも実在するなら、必ず過ちを犯すだろう。」
「だが、天が実在しないなら、天が人を救うことなどあるはずがない。天に人を救うことができるのであれば、必ず過ちを犯す」
「人は自らを救うしかない、ということなんだ——李斎」(陽子)
陽子が李斎との会話で得た結論です。
李斎は天を疑い、何故これほどまでに戴に残酷な運命を与えるのかを嘆きます。
陽子にもそれはわかりません。
しかし陽子は、天帝が本当にいたとしても、そうでないとしても結局人は自らの苦しみを自ら助けるしかないと李斎に説くのでした。
ある意味、十二国のため最もつらい運命をたどったのは陽子です。
その陽子が苦しみに対して立ち向かうしかない、と言い切れるようになったことから、王として成長したことが伺えます。
「これほど高い代償を——しかもゆえなく要求しながら、そうやって選んだ王に対して、天は何の手助けもしてくださらない。驍宗様に、王として何の落ち度があったというのですか。(中略)あれほどの民が死に、苦しんでいるのに、なぜ正当な王を助け、偽王を罰してはくださらないのです!」
「天にとって——王は——私たちは一体、何なのです!?」(李斎)
李斎が蓬山で陽子と会話をしたときの嘆きです。
これは誰しも思うことではないでしょうか。
むしろこれまでの十二国記を読んできて、ここまで理不尽でありながらも良しと出来る読者もいないでしょう。
十二国だけに限らず、天や神があるとしたらそれはおそろしく理不尽な存在です。
李斎がそれを嘆くのは、泰麒も王も不在という打開できない状況に戴が追い込まれたからです。
両名は死亡していれば、そのうちに選定が始まります。
しかし生死が不明である以上、戴の民はいつまで王と麒麟の不在の土地にいればいいのか全くわからないのです。
李斎自身、ここに来るまで多数の味方を亡くしています。
「けれども李斎——僕はもう子供ではないです。いいえ、能力だけで言うなら、あのころのほうがずっといろいろなことができた。かえって無力になったのだと言えるんでしょう。けれども僕はもう、自分は無力だと嘆いて、無力であることに安住できるほど幼くない」(泰麒)
助けられた泰麒が、李斎と戴への帰還を決意するシーンです。
幼少の泰麒は、転変や折伏が出来ないと悩んでいました。
しかし、成獣した泰麒にはすでに奇跡を起こす「角」がありません。
ただの人と相違ないのです。
しかし自らが戴の麒麟であり、戴の民であることは変わりありません。
戴を救うのは、戴の民だけであることを泰麒はよく理解しています。
それゆえに泰麒はすぐに帰還し、戴の民に仕えようとするのです。
『黄昏の岸 暁の天』の感想や見どころ
陽子が王として成長している!そして李斎がもう泰王でいいと言いたい!
今回はそんな作品となっています。
陽子の成長が嬉しい
泰麒奪還作戦の立役者となった陽子。
しかも今回は景麒たちが反対する中で、「仲間が救えない玉座はいらない」と決意を述べるなど、強さを感じさせます。
尚隆ですら恐れる「覿面の罪」をかいくぐる方法を自らで探し、蓬山まで向かう彼女は序盤の「迷う王」ではありません。
信念に基づいた行動をとる、立派な王となりました。
今回の主役はほぼ李斎といっても過言ではありません。
李斎といえば、泰麒にお気に入りの将軍。
ですが勇猛果敢であった彼女は戴国への謀叛という罪を着せられ、その戦いの中で右腕を失っています。
腕を無くした将軍。そして角を無くした麒麟。
このふたりが戴に赴いて出来ることはあるのでしょうか。
李斎は泰麒を「戴国の希望」と考えています。
奇跡を起こせなくても、ただあるだけで希望となる。
李斎はそう西王母に伝えて泰麒の助命に成功したのです。
西王母とは中国の古い神話でも登場する女神で、十二国神話にも登場します。
その神を動かす熱意は李斎の「戴を救いたい」という気持ちでした。
驍宗がいない今、もう李斎が戴王でいいと思ったのはこの熱い気持ちがあるからです。
十二国はそれぞれの国に干渉しない!
陽子の考えは今まで十二国では前例のないものでした。
十二国は自国のことのみで、他国への干渉はしないのです。
もちろん王の就任式や貿易といった行き来はありますが、政治に関してはタブー視されています。
「覿面の罪」は、すでに十二国に故事があります。
昔、才の国に遵帝(じゅんてい)という王がおり、隣国である範の王が民を虐げているのを見て、哀れに思い王師を範へ出兵させたのです。
しかし、王師が国境を越えて数日後に麒麟は死に、王も倒れました。
さらにそれまでは御璽(ぎょじ)が「才国」であったものが、次の王が就任したときには「采国」へと変貌していたと言います。
国の名を書き換えさせられてしまうほど、恐ろしい罪なのです。
そのため、他国には干渉しないという十二国ルールが存在しています。
加えて、王はその国の者しか成ることが出来ないというルールもあるのです。
「天帝」は存在するかどうか。神話か真実かが問われる。
本作は「覿面の罪」や蓬山の西王母など、神話なのか真実なのかわからない部分が明らかにされています。
結果、西王母は間違いなく存在していましたし、恐らくこの十二国には「天帝」という創造神が存在するように考えられます。
しかし、天帝が存在するのであれば李斎が言った通り、戴を滅ぼすのであれば何故作ったのだという疑問は残ります。
創造神である「天帝」は万能ではない。
陽子はこれを指摘しています。
陽子が延王の助力を得たのは「覿面の罪」に当たらないことや、一旦仙に召した上で泰麒を救うなど、天帝の決まりは「文言通り行う」のでなければルールとして発動しないのです。
尚隆はこれにすでに気づいており、ルールをうまく活用している部分もあります。
われわれのイメージする神は、万能であらゆる人の行動を知っているという印象があります。
十二国でも天帝に関しては、(李斎のような)一般人であればその通りです。
しかし実状は違います。
天帝はあくまで文言通りのルールを定めた者かつ違反したものを罰する存在と言えるでしょう。
この「文言通り」をどうすり抜けるかも、王の技量なのかもしれません。
作者である小野不由美は、西洋的な絶対神に対し違和感を感じていると考えられます。
こうした神の存在の問題は、彼女の作品「屍鬼」でも語られており、ここでも「定めた通りでなければ供物を拒む神」が神であるかどうか、が取り上げられています。
年数を重ねるごとに十二国記も深い問題に入り込んできたのです。
本記事では、アニメ『十二国記』のフル動画を全話無料で視聴できる配信サイトについてまとめました。 「十二国記」は小説が原作の長編ストーリーとなっており、アニメ版ではそのうちの4篇が描かれています。 […]